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廃バスの乗客
ペンネーム:ブルちゃんさん
最近、引っ越してきた家の近所に細い道がある。昼間こそ日が当って見通しがいいが、夜になると電灯が近くにないのでひどく暗い。その路地に隣接するように駐車場がある。駐車場には大型トラックが何台も連なって駐車していて、わずかな休息をしているようだ。そのトラックの中で一際目立つ、場違いなバスが一台廃棄されている。どれくらい昔からそこに置き去りにされているのかはわからないが、相当古いものだということはわかる。長年の風雨にさらされ、赤錆がそこかしこにこびり付いていた。
最初、そのバスの車内を覗きこんだときは大変驚いた。誰も乗っていないだろうと思われた車内に、人影がボーっと浮いていたからだ。しかし、その人影はどれほど時間が経っても微動だにしない。身じろぎひとつしないので、私は、ああこれはマネキンなんだなと理解して、家路へ着いた。
二日目、この日の夜も例の廃バスが捨てられている駐車場へ向っていた。やはり、廃バスの中には昨日と同じように、同じような格好で、マネキンが直立している。しかし、ひとつだけおかしなことに、マネキンの位置が昨日よりも窓ガラスの方へ寄っていた。誰かが動かしたのだろうか。まあ、そういうこともあるかと考えつつ、その場をあとにしようと歩き続けていると、誰かに見られているような気配を感じる。ふとマネキンをかえりみると、目だけが私を追っていた。
三日目、昨日のことがあったので、今日はこの道を通るのをやめにしようかと思ったのだが、この道を通るのが一番の近道なので、結局この日もこの道を使うことにした。しばらく、行くと例の廃バスがその無残な有様をさらしている。少し早足でその場を通り抜けようとしたが、その日はいつもとちがっていた。というのも、ドン、ドンと何やらバスの窓を叩いている音がする。何だろう。音がするほうに目をやると、それは例のマネキンだった。いや、結論を言うとそれはマネキンですらなかったのだ。
とても人間とは思えないほど白い男の顔が、私をバスの窓からジーッと見下ろしている。ドン、ドンと叩く音はそいつが両手で力いっぱいバスの窓ガラスを叩いている音だったのだ。男には首から下がなく、ただ、異常に肥大化した巨大な顔と、巨大な両手だけが、薄暗い車内のなかにポッカリと浮いている。異常なほど血の気の失せた白い皮膚が、暗がりに浮いているものだからくっきりとその姿形を際立たせていたのだった。私は一目その光景を見て、腰を抜かしそうなほど驚いた。その晩は急いでその場を離れて、しばらくその道へは近づかなかった。
一週間ほどが経過し、徐々にあの男への恐怖も失せ始めていた。あの光景を見てから、相当経ったし、今日は久々にあの道を通ってみようと、例の細い道を歩いて家に向っていた。と、例の廃バスが見えてきて、私は戦慄した。あの男がよりにもよって、運転席に浮かび上がって、私がバスに近づくのをジッと待っているのだ。さもうれしげに、微笑みながら、手まで振っている。全身があわ立った。
私はその場を早足で通り過ぎようとするのだが、男はその日必要に私に、
「ここにいるぞ」
とアピールしてくる。私の歩調に合わせて、車内を移動しつつ、窓ガラスの一つひとつを叩くのだ。結局、この日、あの男は一番後ろの席まで私を追ってきて、何度も何度も後ろの窓ガラスを叩いていた。あの男がバスの中から出てこれないようなのが、幸いだった。あのバスで何があったのか、どうしてあの男はずっと車内にいるのか、その理由はわからない。
※このお話の後編「第66話 続・廃バスの乗客」はこちらです。
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