私が以前住んでいた家の直ぐ隣にあった墓地で起こったお話です。その日、私は洗濯物を干すために、家のベランダに出て来ました。ベランダから外を見ると、その墓地を見渡せます。

早速、洗濯物を干し始めていると、墓地に人影があることに気づきました。見るとその人影は、両手に水を一杯に溜めた桶を持ち、ヨロヨロとゆっくり歩いているお婆さんでした。お婆さんが歩く度に、桶の水はこぼれそうになります。やがて、やっと一つの墓石の前で桶を置き、熱心に祈り始めました。

私はそこでやっと洗濯物を干すことを思い出し、かがみ込んで洗濯物を取り出し、干そうと頭を上に上げたときでした。
（……いない……）
あのお婆さんが跡形も無く消えていたのです。勿論桶もありません。それ以来、引っ越しをするまでベランダに洗濯物を干すのが怖くなりました。

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