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墓地を飛び回る魔物

ペンネーム:しげちゃんさん


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私がまだ小学生だったころ、外で友だちと遊び終え、夕方家に帰ってくるときのことです。家に帰る途中に墓場がありました。その日、私はどうした訳か、墓場を抜けて近道をしようと思い立ちました。墓場に足を踏み入れた途端時空が変ったのを覚えています。

墓場の中に足を踏み入れた途端、急にあたりが静かになりました。いままで、聞こえていた町の人々の話し声や、自動車の音がパタっと止んだのです。ただ、風のそよぐ音だけが漂います。それでも、怖いものを知らない小学生の私はその異変をものともせず、歩き続けます。

誰もいない墓地を抜けていると、ふいに鳥の鳴き声が聞こえました。それはカラスとも、ハトともちがう、いままで聞いたことのない鳴き声でした。私は声のした方向に目を向けます。すると、私はたまげました。サギほどの大きさの見たことない鳥が、炎をまとって飛んでいるのです。鳥は、再び一声鳴くと、そのまま燃えた翼をひるがえし、私の頭上を越えていきました。

しかし、私はなぜかそれが不思議な光景に思えませんでした。それが至極当然のことのように思え、気にも止めずにまた歩き始めます。夕陽の大部分が隠れ始め、ますます墓場は暗くなりました。――と、正面に何かが飛んでいます。

きれいな羽を大きく広げて私の目の前で飛来しています。ただ、大きさが尋常ではありませんでした。信じられるでしょうか。それは、私の背と変らないのです。いや、もっと大きかったかもしれません。そんな化け物チョウが、我が物顔でヒラヒラしていたら、普通驚くのですが、やはり私はひどく冷静でした。

まあ、そんなこともあるだろうと、そのチョウがいることに何の違和感も持たずに、その場をあとにします。ただ、さすがにチョウのかたわらを通るときに、気持悪いとは感じたのですが。チョウをやり過ごして、真っ直ぐ歩いていくと、やっと墓地の出口が見えてきました。――と、またもや何かが飛んできます。今度は、赤い火の玉がゆらりゆらりと私に近づいてきたのです。それも、数え切れないほどたくさん。私は火の玉に包囲されようとしていたのです。

そのとき、突然マヒしていた感覚が体の芯から湧き上がりました。――怖い。私はやっと、火の鳥や、化け物チョウ、火の玉、すべてに恐怖を感じて、一目散にそこを駆けていったのでした。

私は一度も振り返らず、家に辿り着くと、肩で息をしながら、玄関に座りこんでしまいました。玄関で私が物音を立てたので、母が台所から出てきました。そして、私の顔見るなり、
「まあ、どうしたの! その顔!」
と言うので何があるのかと、洗面所で自分を映して驚きました。顎が5cmくらい、パックリ皮膚が開いていて、血がドクドク出ていたのです。それは鋭利な刃物で、切り裂かれたような見事な切り口でした。すると、お婆さんが奥の間から出て来て、
「おお! その傷はカマイタチだよ」
と教えてくれました。

その後、病院に行って何針も縫う大ケガになってしまいました。医者にも、母にもどこで何をしてきたのか聞かれ、正直に話したのですが、信じてもらえなかったことのほうが残念でした。それから数十年。この話は、親しい友人にも話したことがありましたが、いまだに誰も信じてくれません。いまでも、あの墓地の付近へ近づくのはやめにしています。

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