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もう25年ぐらい前の忘れられない体験
ペンネーム:河童さん
現在50才の親父ですが、25年前の自分が25才当時に体験した今でも頭から離れない恐ろしい出来事を話します。私は東北の山と海に囲まれた小さな田舎で育ちました。19才で免許を取り、初めて買った車で少し遠い所へ釣りに出かけることにしました。夜の11時頃。車に釣り用具を積み込み、友人を連れて行きました。
車でも30㎞と意外と遠い場所だったんですが、友人が国道を走るより近道があると教えてくれました。その道は農作業の耕運機が走るような砂利道でした。ひたすら走ると意外に早く着く道です。
25才になり、19才の時に行って以来2回目の釣りに1人行きました。時間は深夜12時。その当時ちょうど自分の車で免停だったこともあり、免停のことを考えると国道を走るより砂利道を通るほうが安全と自分なりに判断し出かけました。
記憶をたどりながら走るとその砂利道が見えたので砂利道に入って走りました。間違いなくその当時走った砂利道なんです。が、時代が過ぎたせいか、砂利道も荒れて、両わきには雑草が車の屋根ぐらいまで伸びていました。
あんまり誰も使ってないんだなって思いながら走っていると、ちょうど半分ぐらいまで走ったところで両わきに鉄柱がありました。道には鎖が張ってあって、その当時凄く腹が立ったのを覚えています。一旦車から降りて周りを見ると、車が一台通れそうな別の砂利道がありました。
もしかしたら、その道でも目的とする場所の方向には行けるんじゃないか。なぜなのかそう思い込んで、その道を車で入りました。車の両わきにには雑草がバッチんバッチん当たり、どうせ今日は親父の軽トラだからいいやって思いながら走ると、一軒家に突き当たりました。
赤い屋根の木造の玄関。窓もアルミサッシじゃなくて木の窓枠と相当古い家です。完全に廃墟と自覚したあのときの、寒気を感じた瞬間を忘れる事は出来ません。それなのに、なぜかヘッドライトを廃墟となった一軒家に向けていました。
2階建ての作りで、窓は完全に腐っています。玄関にはベニヤ板等が張ってあります。ヘッドライトの灯りで見える範囲では、家の中には相当昔のタンスみたいなのや四本足のテレビも見えました。
色が認識出来ないような古いカーテンも、破れて二階の窓から外に出ています。瞬間的にここやばいって自覚しました。車に戻り引き返そうと思った瞬間、二階の窓の中を誰かが通った感じがしました。いえ、誰かが本当に通ったのを見ました。
そんなときって車に乗り込むのも恐怖を感じるんです。必死に今のは見なかった事と自分に思い込ませ、車に乗り込もうとしたとき、今度は下の茶の間のような所をはっきりと若い女性が通るのを見たんです。
怖さで体が震え、車に乗ったら廃墟の中で見た女性が車の中にいるんじゃないかと、何をどう考えていたのか覚えていないがその場に座り込ました。その瞬間、二階の窓のある部屋から、
「お願い早く来て」
って女の声がはっきり、本当にはっきり聞こえました。
怖いけど目を閉じると目を開けた瞬間目の前にいるんじゃないかと思い、まばたきも出来ません。そのとき二階を見ました。自分と同じぐらいの女性が、はっきりと窓にたっていました。車のヘッドライトが照らすその女性は、幽霊とかそんな感じではありません。
普通の人間としての姿形でした。一瞬恐怖感が抜けて女性の顔を見ると、優しい顔の、こんなことはおかしいですが綺麗な女性でした。少しの間たしかに、その女性と自分は目が合いました。ただ優しい顔で自分を見ていることだけは今でもはっきり覚えています。
幽霊ってこんなにはっきりと見え、姿も形も普通の人間と変わらないんだと思えた瞬間でした。私は
「すいません、道に迷ってここへ来てしまいました」
って、そんなことを何回も女性に喋りかけました。けど返事はないんです。
怖さを少しでも軽くしようと、必死に喋りかけましたが返事はありません。そのとき下の茶の間が一瞬ふぁーと明るくなったような気配を感じて目を向けたんです。しかし、なにも変化がなく、再び二階を見たときには、すでに女性の姿はありませんでした。
時間がどれほど過ぎたのかわからないけど、女性は現れませんでした。勇気を出して車のドアを開け、電波の悪いなかラジオの音を高くして、怖さを紛らせます。車に乗り込み平常心を装いながら慌てるな慌てるなと、自分に言い聞かせます。
スピードを上げる事なく平常心をたもったまま家にもどったんです。何故か今日見た出来事は、誰にも言ったらいけないんだと思い、誰にも言わずにいました。何日か過ぎました。が、どうしてもあの廃墟でみた女性の顔を忘れる事が出来ません。
他の人には理解してもらえないと思いますし、自分の中でも幽霊の女性なんだと自覚しています。女性の身なりなどから、もっと古い時代の人に思えました。ですが、本当に優しい顔をした綺麗な女性だったんです。
たぶん綺麗な女性の幽霊だと自分が想っていたから人には言わなかったんだと思います。あんな誰も来ないような場所だし、また逢いたい見てみたい。怖いのに、行きたい自分を押さえる事が出来ません。若かった自分なりに水を入れるコップと水筒に水を入れ、お菓子と線香を持ちました。同じ時間12時に車を走らせ、その場所に行きました。
やっぱり着くとゾッとする恐怖感はありました。が、二階の窓の下に行き、地面に板を敷きます。コップの中に水を入れ、お菓子を置きます。線香に火をつけ、地面を少し柔らかくして線香をたて、車の方に戻りました。
そして、二階を見ながら、
「この前道に迷って来たものですが、この前はすみませんでした。勝手に水とお菓子を置いていくので食べてください」
っていいました。
なぜか自分はタバコを一本すって時間を過ごしました。が、女性を見ることは出来ませんでした。車に乗り帰ろうとしたとき、何だか凄く寂しくてしかたありませんでした。家に帰り、朝方、布団に入り眠ってしまった自分は夢で、あの女性が優しい顔で
「ありがとう」
って自分に言っている夢を見たんです。
夢を見てから、片時も女性の顔を忘れる事が出来ずに、あの優しい顔を見たくて見たくてたまらない気持ちになりました。幽霊とわかっていても、好きになってしまった自分がいました。その日の夜中にまた車で行きました。
何度云っても着いた瞬間は恐怖感しかありません。その日は合いたい気持ちが募り、ヘッドライトを上向きにして照らし、懐中電灯を持って下の茶の間の窓から入りました。二階に行きたくて階段を見つけると、ぼろぼろに壊れた階段がありました。
力を入れずに二階に上がって行きました。女性を見た部屋の中を初めて見ました。古くてホコリの溜まった、相当の年数が過ぎた感じの部屋でした。懐中電灯であちこち話しかけながら見ました。が、女性は現れません。
一言、
「どうしても会いたくて来てしまいました」
って言いながら階段を力を入れずにゆっくら降りると下に着いた瞬間、
「ありがとう」
って聞こえました。
振り返って、階段の上を見ます。と、階段の上がってすぐの所に女性がたっていました。確実に幽霊なんだと実感した瞬間でした。が、
「あなたの事好きです」
って思った事を言った自分と幽霊だとわかっていても、ここに女性と自分だけ、男としての下心が正直あり、自分の下半身に感じるものもありました。
この人は幽霊、幽霊なんだとわかっていても、女性の姿や顔に見とれてしまう自分がありました。幽霊でもいい、話もしたい、キスもしたい。正直、幽霊でも抱きたい。そう思い、階段を上がろうとした瞬間、この世の者と思えない声で、
「来るなー来るなー」
不気味な声でした。
初めて腰を抜かすほどの怖さで、どうして帰ったのか、気がつけば国道に出て家に車を走らせていました。1週間ぐらいして自分のおじいちゃんの友達が、おじいちゃんと家で酒を飲みながら世間話をしていました。
おじいちゃんの友達もいるところで、誰にも言わなかった、あの廃墟で見た女性の幽霊の話をしました。そうしたらおじいちゃんもおじいちゃんの友達もみんな、あの廃墟の事はしっていました。
おじいちゃんの友達の話では、あの当時、あの家はこの辺では一番最初に建った家なんだと。畑も山も土地も財産すべて譲り受けた若い夫婦が、あすこに家を建てたのだと。
若い旦那は自分の船があったから、夕方から朝方まで海で漁を。嫁は近くで畑をやってたって。お前が生まれる何年か前、あの家へ旦那が海へ漁にいっている夜中に隣の町の40代だったか、それぐらいの歳の男がこっそり忍び込んだ。
そして、何回も犯してそのまま首を締めて殺したんだ。旦那は気が狂って山奥で首を吊って自殺して、あの家はあのまま誰も気味悪がって近づかないし、気がつけば何十年もあすこには人は近づかない。じいちゃんも忘れてたよお前が言うまでって。あれから25年。
自分も都会に出てきて生活そして家族もあり、あれ以来行っていないし二度と行くこともないけど、あの日、
「来るなー来るなー」
って聞こえたのは、自分もあの女性に対して下心を出したからなのかって思えてなりません。
そんな下心な気持ちを持たずに成仏の気持ちだけで、あの日のように線香や水を供えるだけだったら、安らかに成仏したのではないか。きっと喜んで夢の中で
「ありがとう」
っていってくれたんだと思いました。人間と同じ幽霊にも感情はあるんだと、あの当時の自分を振り返り、時々思い出しては今でも恐怖を味わったあの瞬間を思い出します。
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