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乾パンを食べる女生徒

ペンネーム:むかし高校生さん


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その日は雨が降っていたため、グラウンドが使えず、部活動は屋内ですることになった。陸上部は部室の前でしばらく練習をして、廊下を軽く走ることになった。大きな学校だったので、普段行く事がない教室の前を通ったりすることは、新鮮だった。

しばらく、走り続けていると、いつもは行かない教室があるところに着いた。放課後ということもあり、あたりはひっそりとしている。雨が降っているせいもあり、廊下はいやにうす暗かった。物音と言えば、雨音と私の走る音だけが響く。――と、目の前に誰か立っているのに気づいた。

誰もいないはずの教室の壁に持たれかかるように立っている女生徒。頭には古臭い防災頭巾をかぶり、肩にだらりと三つ編みが垂れ下がっている。その三つ編みはどこかだらしなく、髪は脂ぎっているように思えた。顔はうつむいていたためよくわからない。私と同じ制服を着ているから、この学校の生徒なのだろうが、制服は煤にまみれたようで、白いはずの布は灰色に変色していた。

段々、その子に近づくと、どうやら何か食べているらしいことに気がついた。しきりに細い手を口元に運んでいる。――乾パンだ。女生徒はそれをむさぼるように、忙しく口に運んでいた。ボロボロと乾パンのカスが廊下に舞い落ちる。私は淡々とリズムを崩さず、彼女との距離を縮めていく。すると、それに女生徒は気づいたようで、おもむろにこちらを一瞥すると、ドアを開け、教室の内へ隠れてしまった。

私は気分が悪くなった。決して、私を見て教室へ入ったからとか、そういうことではない。あの女生徒が私を見たときの眼が、気持悪かったのだ。何か恨むような、悲しむような、色々な感情が入り混じった眼でこちらを睨んだあの眼。引き返そうかとも思ったが、ルートは決められている。

女生徒が入った教室の前に差し掛かり、私は改めて教室の中を覗いた。衝撃だった。中には誰もいないのである。当然、教室の出入り口は、廊下側にしかついていないので、外に出たなら、私が絶対に見ているはずである。それが、いない。そういえば、あの防災頭巾に、煤まみれの制服、乾パン。どれも戦時中のような有様ではないか。私は身震いした。私は少し、走るペースを上げた。

そのまま、学校を駆けずり回っていると、同じ部活の先輩と出くわした。先輩は、一緒に行こうと言ってきたので、二人で走っていた。一周目を終え、二週目。先輩と一緒とは言え、またもやあの教室に向うのは正直うんざりだった。だが、仕方がない。先輩は当然何も知らないのだから、気にせずぐんぐん行く。私も遅れてはなるまいと、ペースを合わせた。

廊下を曲がり、例の場所に着くと、背筋が冷たくなった。また、例の教室に寄りかかるように女生徒が立っているのである。今度は、防災頭巾を着けてはいなかったが、しきりに乾パンを口に運んでいる仕草は見間違えようがない。先輩は気にせず、その女生徒との距離を縮めていく。

そして、その女生徒の前を通り過ぎるか、過ぎないかというとき、先輩が何とあの女生徒に声をかけたのだ。私は一気に気が抜けた。何だ。今度は、本物の人だったのだ。良く見ると、髪形も三つ編みではない。制服も綺麗だ。たまたま、同じ場所で、同じように乾パンを食べていただけなのである。しばらく、先輩はその女生徒と話し、私たちはその場を後にした。私はふと振り返ると、その女生徒の背後に、恨めしそうな顔で私たちを見送る防災頭巾の彼女を見た。

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