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白いボール
ペンネーム:よっちゃんさん
ある日、夕食の支度をしていると、視線を感じました。家族の誰かがキッチンへ入って来たのかと思い、振り返りましたが、誰も居ません。リビングから笑い声が聞こえてきます。どうやら、家族は皆リビングに集っているようです。それでは気のせいかと、思い直し、私は料理の続きを始めました。
しかし、しばらくするとまた、誰かにじっと見られているような妙な視線を感じます。キッチンをぐるりと見渡しますが、やはり誰も居ません。疲れているのかなと思いながら夕食の支度をしようとガスコンロに向きなおったとき、おかしなものが目に入りました。
ガスコンロの右手に窓があります。私が住んでいたのは田舎でしたので、夜になると街灯もないので真っ暗闇です。ですので、普段であれば日が暮れると、本当に何も見えないのですが、その日は違っていました。窓の下の方にサッカーボール台の白いボールがボーっと浮いています。何だろう。私はその奇妙なボールに目を惹かれて、じっと眺めていました。
ボールは少しずつ上へ上へと、浮かび上がってきます。丸いボールは火の玉のようにぼんやりとした球体ではなく、意外にも鮮明でした。外が真っ暗闇だったのも、影響していたのでしょう。ボールと背景のコントラストは、くっきりとしています。ボールは泥ひとつ付いていない、完璧な白色をしていました。ボールは私の目線の高さでピタリと止まりました。私はますますそれをよく見ようと、窓に近づきます。どうやら、ボールは空中でゆるやかに回転しているようです。
――と、ボールの形が崩れてきました。いえ、ボールが崩れてきたのではなく、いままで見えていなかったボールの側面がこちらへ向いてきたのです。最初は何やら尖って山になっているものが、見えてきました。次に、表面がかさついた二枚のひだ状の物が、表れます。さらに回転していったところで、私は腰を抜かしそうになりました。全身に鳥肌が立ち、こんなものを至近距離で目にしてしまったという事実が受け入れられませんでした。
その二枚のひだ状な物の後に表れた物、それは鼻だったのです。二枚のひだ状な物は唇で、尖った山のようなものは顎でした。そう白いボールは、ボールでも何でもなく、人の頭だったのです。私は人の顔を丁度下から覗き込んでいたように、見ていたのです。文字通り血の気のない、顔は容赦なく回転を続け、目、眉とその顔の全てをこちらへと向けてきました。
それは恐ろしい老婆でした。顔中皺だらけで、口元は苦しげに歪み、目をつり上げ、私をにらみつけています。あきらかに敵意を持った形相でした。老婆の口が突然、大きく開きます。何かを叫んでいるように思えましたが、私には何も聞こえませんでした。すると、突然パッと跡形もなく消えてしまいました。行ってくれたのかと思い、安堵したのですが、まだ終わりではなかったのです。
またもや窓の下の方に、あの顔が浮んでいます。再び私の目線の高さまで浮かび上がると、自分の顔を見せつけて、叫ぶのです。それを朝までくり返していました。当然その日は、まんじりともできませんでした。それ以来あの老婆は現われることはありませんでした。あの老婆は、何を訴えていたのでしょうか?
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