軍議
ペンネーム:ガチャピンさん
車で久々に家族旅行をしたときに体験したお話です。その日は、ちょっと遠くの方までドライブに行こうということになり朝から出かけました。車であちらこちらを見て回り、とても楽しい時間を過ごし、いざ帰ろうとしたときにはすでに日が暮れ、すっかり、夜になっていました。
(さっきまであんなに明るかったのに……)
夜になったとたん辺りは漆黒の闇に包まれました。車はさっき通った道を戻っているのですが、昼間とはすっかり様変わりしてしまいとても不気味です。行けども行けども民家すら見当たらず街灯も無いため、車のヘッドライトだけが前方の様子を照らしています。
「あんな所に神社があるぞ」
唐突に車を運転していた主人が言いました。主人が見ている方向に目をやるとたしかに古ぼけた、灯り一つ無い神社が車のヘッドライトに照らされその輪郭を浮かび上がらせていました。
「お参りしていこうか?」
「ええ!?もう夜も更けたし、暗いからやめましょうよ」
「大丈夫だよ。車のヘッドライトを神社に向けとくから……それなら良いだろ?」
「やっぱり、いいよ。怖いから……」
「何だよ弱虫だな。いいよ俺だけ行って来るよ」
そう言い放つと、主人は本当に神社の近くに車を止め、そそくさと神社に向かって行きました。
私は誰に何を言われようとこの神社だけには近づきたくありませんでした。私にはもう見えていたのです。それは今でも思い出すと本当に恐ろしい光景でした。参道を挟んで両脇に鎧を身に着けたお侍がびっしり座っているのです。そして主人が参道を一歩一歩、歩いて行く度にそのお侍たちが一人また一人と主人を目で追っているのです。お侍たちは主人が自分たちの目の前を通り過ぎても、片時も目をそらすことなくじっと様子を伺っています。
しかし主人はその様子に全く気づかず、賽銭箱の前まで来ると少し怖かったのでしょうか、すばやくお参りを済ませ戻り始めました。そのとき私は血の気が下がりました。主人が一歩前に進む度に様子を伺っていたお侍たちがゆっくりと、立ち上がりさらに鞘に手をかけ、今にも背中を真一文字に斬りかかる様な勢いでした。
主人は鳥居を出るとニコニコと満面の笑顔で戻ってきました。
「ほら。何にも無かったよ」
私は主人の言葉よりも神社の境内でまだこちらの様子を伺っている、お侍たちに目を奪われました。早く立ち去らなくては――私は主人をせかし家路に着きました。
もしあのとき主人が神社を出るときに一度でも後ろを振り向いたら、もしかしたらあの刀で斬られていたかもしれない……そう思うと今でも恐ろしい光景です。
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