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待合室の番人

ペンネーム:ムーンリバーさん


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会社のビルに待合室があります。そこを点検に行ったときに体験したお話です。私の会社では退社間近に、待合室にどなたか残っていないか確認しにいくことになっています。その日も、いつも通り業務を終えて、仕上げに待合室へ向かいました。

扉をそっと開け、中を覗きます。室内の蛍光灯はすべて消えていて、辺りは真っ暗闇です。当然、人は誰もいませんでした。特に異常も見られなかったので、さて帰ろうかと思ったその時でした。突然、蛍光灯が点滅を始めたのです。

もちろん、私は蛍光灯のスイッチに手を触れていません。誰かが入って来たにしても、室内は狭いですし、私が気づかないはずがないのです。慌てて、蛍光灯のスイッチに目を向けると、スイッチはオフを示していました。

天井にいくつも取り付けてある蛍光灯は、てんでんばらばらに点滅をくり返し、完璧に光が灯る気配はありません。電気系統の故障だと思った私は、誰かに連絡しようと踵を返そうとしました。しかし、その必要は全くなかったのです。

室内の壁から、背広を着たうしろ姿の男性が、サーッと私の前を横切っていきました。走っているのではなく、見えないスケートリンクをただ滑っているように移動したのです。その彼のうしろ姿を追うようにして、蛍光灯の明かりが消えていきます。

そしてピタリと部屋の反対側の壁の前で歩みを止めました。もちろん、この世の者ではありません。その証拠に、下半身はポッカリと消えてなくなっていました。手に古い型の携帯電話を持ち、誰かに話しかけているのかブツブツと念仏を彷彿とさせる声が、室内に響いています。

私はあまりの出来事に、手が震え、足が動かなくなってしまいました。――と、男がゆっくりとこちらへふり返り始めました。空中にぼんやりと浮かんでいる上半身が、ゆるやかにこちらへ向き直ろうとしているのです。あの男と目が合ってしまう!

そう思った瞬間、私は恐怖に囚われました。転がるように部屋をあとにし、それ以降その待合室に近づくのはやめています。いまでもあの男が何者だったのか、よくわからないのです。

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