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路面電車

ペンネーム:古地図さん


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電車の音がする。時間帯はいつも深夜。遠くから消え入るような電車の音が、聞こえるのだ。翌朝、不思議に思い外へ出てみても、電車がどこを走っているのか検討がつかない。大体、深夜に電車が走っているものなのか。

ここへ私が引っ越してきた理由は、なによりも静かな立地だったからだ。だから、電車が家のそばを走っている土地は選ばない。それに引っ越してくるときも、電車が近くを走っているのなら、気づかないはずがない。一体どこを電車が走っているのだろう。

最初のころは、電車の音がどこから聞こえてくるのか不思議だった。目に映らない存在というのも、不気味さを助長させる。だが、月日の経つうちに、次第にその状態が当たり前になり、やがて全く気にしないようになっていた。電車が家の近くを走り抜けるような、爆音であればこういう心境にならなかっただろうが、元々電車の音は遠くて小さい。

それから一年が過ぎた。ある日ふと気がつくと、電車の音がしない。深夜になると、必ずと言っていいほど、枕元に聞こえてきた音がしない。とうとう、近隣の住人から苦情が来たのかな。夜更けの運転はやめたのかもしれない。私はそんな風に考えて、特に気にも止めていなかった。

ある日、近所の図書館へ調べ物に行った。そこで郷土資料を見ていた時、大変驚いた。私の住んでいる地域の古地図をぼんやり眺めていたのだが、そこにはいまは無い線路が横切っていたのである。

これに興味を惹かれてもっと調べてみると、私の家の近くには何十年も昔、路面電車が走っていたのだそうだ。戦後インフラが整うと、バスにその役割を奪われ、路面電車は廃止された。私の家の近くは、廃線跡なのであった。そんな面影を感じられなかったので、全く気づかなかった。私はこの事実を知ると、どこか納得でき、寂寥感に襲われた。

長年近隣に愛され、足となっていた路面電車。深夜になると走りだす、怪電車。もしかすると、私には聞こえなくなっただけで、いまでも路面電車は、幻の線路を走っているのかもしれない。

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