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某県心霊ホテル

ペンネーム:冬さん


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某県に有名な心霊ホテルがある。バブル期に建設されたと思われ、景気絶頂時にはおそらくたくさんの人がそのホテルを利用したのだろう。バブルが弾けて十数年。そのホテルも不況の煽りを受けて、いつしか店を畳んだ。

しかしホテルを取り壊すのは面倒であったのか、はたまた壊せない曰く憑きの事情があったのか、その骸をいまだに月夜にさらしている。

私たちはある日、ドライブを楽しむためこの某県へやって来た。天気は見事な日本晴れで、突き抜けるような青空が心地よい日であった。観光名所を巡り、珍しい物へ触れていたら時間の経つのは早いもので、いつしか夕方が迫ってきていた。

例のホテルの前を通りかかったのは、あくまで偶然だった。実は当時、私はこのホテルにそのような心霊の噂があるとは知らなかったのだ。

車が森林の間を抜け、視界がぱっと開けると、ホテルが私たちの目の前にその全容を現した。左右対称に伸びた大きなホテル。車が何十台と止まれるであろう、巨大な駐車場。外観はすっかりくたびれていて、かつて青かったのではないかと思われる壁は、ほとんど剥げていた。

ホテルの2階には、たくさんの人たちがひしめいていて、笑い声まで聞こえてくる。不思議だったのは、廊下に居る人間が皆、私たちを見送るように車をじっと見つめていることだった。

このような光景を見てしまったので、
「ああ、こんなに古くさいホテルだけれども、まだ営業しているのだな」
などと、のんきに考えていたのを覚えている。車がホテルの前を通り過ぎ、緩やかなカーブに差し掛かったとき、主人が、
「古い気持ちの悪い廃ホテルだったね」
と言うので、
「何を言ってるの? たくさんの人たちが2階でパーティをしていたじゃない」
と返した。すると、主人は訝しそうな顔をして、
「そんなはずはないよ。あそこは心霊スポットとして有名なホテルだったんだから」
と教えてくれたのだった。

それでは、あの時私が見たたくさんの人間は、何だったのだろう。考えるまでもなく、この世の者ではなかったのである。私は先ほど見た光景を思い返すと、鳥肌が止まらなくなった。

あとで調べてみると、あそこは色々な方が色々な体験をしている心霊ホテルだった。そのホテルは現在も、残っている。

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